日本で宿泊施設を営む場合、まず「旅館業法」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、特に訪日観光客が増加する中で、宿泊需要に対応するため、2018年6月に民泊新法が新たに制定されました。この法律は、従来の旅館業法よりも条件が緩和されており、民泊運営の選択肢が広がっています。
- 民泊をしたいが、どちらの許可を取ればいいか分からない方
- 民泊許可について知りたい方
- 民泊事業で失敗したくない方
1.特区民泊の特徴と条件
特区民泊は、国家戦略特別区域でのみ許可される民泊形態であり、主に東京都大田区、大阪府、福岡市、千葉市などのエリアに限定されます。この制度は、通常の旅館業法や民泊新法とは異なる条件で運営が可能で、特に長期滞在者をターゲットにした営業がしやすいのが特徴です。以下、特区民泊の特徴を図解で解説します。
特区民泊の主な特徴
特区民泊の条件一覧になります。 民泊新法と比較しながら、どちらが適しているか確認しながら確認していきましょう。
特徴 | 詳細 |
対象エリア | 国家戦略特別区域のみ |
最低宿泊日数 | 2泊3日以上 |
年間営業日数の制限 | なし(民泊新法の180日制限と異なる) |
居室の床面積 | 25㎡以上 |
緊急時対応 | 外国語での情報提供、役務提供の必要あり |
管理業務の委託義務 | なし、フロント設置も不要 |
周辺住民対応 | 苦情対応体制が求められる |
1. 対象エリア
特区民泊は、国家戦略特別区域のみに限定され、他のエリアでは申請が認められていません。現在の対象エリアは以下のとおりです。
• 東京都大田区
• 大阪府(大阪市含む)
• 福岡県福岡市、北九州市
• 千葉県千葉市、新潟県新潟市
※その他のエリアも、条件によっては随時追加される場合があります。
2. 最低宿泊日数
特区民泊では、最低2泊3日以上の宿泊が条件となっており、短期宿泊というよりは、
一定期間滞在する長期の観光客やビジネス滞在者に適した形態です。
この条件により、安定した収益を見込みやすくなっています。
3. 年間営業日数の制限なし
特区民泊では、年間の営業日数に制限がありません。民泊新法における180日以内の営業制限に比べ、長期で運営ができるため、フル稼働させることが可能です。これにより、収益の安定性が期待できます。
4. 設備条件
• 居室の床面積:25㎡以上であることが必須で、広さにゆとりを持たせた客室運営が求められます。
• 緊急時の対応・外国語サービス:施設では、外国語での緊急時情報提供や、滞在中に必要な役務を提供する体制が必要です。これにより、訪日外国人が快適に滞在できる環境が整えられます。
5. 管理業務の委託義務なし
特区民泊には、運営者不在時の管理業務委託義務がありません。また、フロント設置の義務もなく、物件の柔軟な利用が可能です。これにより、運営コストの削減や、手軽な運営が期待できます。
6. 周辺住民への配慮
特区民泊運営にあたっては、周辺住民への適切な説明や、苦情対応体制の整備が求められています。これにより、地域社会と共存する形での運営が奨励されています。
特区民泊は、国家戦略特別区域でのみ運営可能であり、長期滞在者向けの収益性が高い形態です。エリア要件を満たせば、マンションの一室を活用した運営も可能であるため、立地条件に特区エリアが含まれる場合は特区民泊を検討する価値が高いでしょう。
2.民泊新法の特徴と条件
民泊新法(住宅宿泊事業法)は、全国どこでも適用可能な民泊運営に関する法律で、2018年6月15日に施行されました。この法律により、空き家や空き室などの遊休資産を利用した宿泊事業が届出制で行えるようになり、法人だけでなく個人も参入しやすくなっています。以下、民泊新法の主な特徴を図解でご説明します。
特徴 | 詳細 |
対象エリア | 全国対応可能 |
年間営業日数制限 | 180日以内 |
最低宿泊日数 | 制限なし |
住宅要件・設備条件 | 届出住宅全体で設備条件が整っている必要 |
衛生管理 | 清掃・感染症予防対策が必要 |
緊急時対応 | 避難経路表示、非常用照明器具の設置が必須 |
標識掲示義務 | 国が定めた標識を掲示 |
1. 全国適用可能
民泊新法は日本全国で適用可能なため、特区などのエリア制限がありません。空き家や空き室を活用したい場合、物件がどの地域にあっても法律に基づいて宿泊事業を行うことが可能です。これにより、地方での観光需要を活用する事業者にもチャンスが広がっています。
2. 年間営業日数制限(180日以内)
民泊新法に基づく宿泊施設の年間営業日数は180日以内とされており、長期営業はできません。これにより、年間を通じたフル営業は難しいものの、空き家や一部の空き室を有効に活用しつつ、短期的に収益を得ることができます。
3. 最低宿泊日数の制限なし
民泊新法では、最低宿泊日数に制限がありません。短期滞在から長期滞在まで柔軟に対応できるため、観光やビジネスで短期間利用したいゲストから、ある程度の期間滞在したい長期利用者まで幅広く受け入れが可能です。
4. 住宅要件と設備条件
• 住宅であること:宿泊施設が「住宅」であることが必須です。居住している住宅の一部や、賃借人を募集している空き家・空き室、別荘なども対象となります。
• 設備条件:施設内に台所、浴室、便所、洗面設備が揃っている必要があります。ただし、これらの設備は各居室に必要ではなく、届出住宅全体で備わっていれば運営可能です。
5. 衛生管理義務
民泊新法に基づく宿泊施設では、衛生管理が義務付けられています。清掃や感染症予防対策を行うほか、施設の管理方法や設備の衛生状態についても基準が設けられています。これにより、宿泊者にとって安心して利用できる環境が提供されています。
6. 緊急時対応・避難経路表示
非常用照明器具の設置や避難経路の表示が義務付けられています。また、宿泊者の安全を確保するため、火災や災害時に迅速に対応できる体制が求められます。
宿泊者名簿の備え付けも必須で、ゲストの滞在記録をしっかり管理することで、安全面を強化しています。
7. 届出と標識掲示義務
民泊新法に基づく施設は、営業前に所定の届出手続が必要です。届出後、施設には国が定めた様式の標識を公衆が見えやすい場所に掲示しなければなりません。これにより、法に則った運営が担保され、地域住民や宿泊者も安心して利用できるようになっています。
民泊新法は、全国どこでも適用可能な民泊法であり、短期滞在から長期滞在まで幅広いニーズに対応可能です。180日以内の営業制限があるため、フル稼働は難しいものの、空き家や空き室の活用により個人でも運営しやすいのが大きな特徴です。
3.特区民泊と民泊新法の違い一覧
項目 | 特区民泊 | 民泊新法 |
対象エリア | 国家戦略特別区域のみ | 全国 |
最低滞在日数 | 2泊3日以上 | 制限なし |
年間営業日数制限 | 制限なし | 180日以内 |
許可方法 | 届出制(国家戦略特区) | 届出制(住宅宿泊事業法) |
管理業務委託 | 必要なし | 清掃・管理業務を定期報告 |
4.運営方法の選択と法律準備
民泊法は宿泊運営のためのハードルを下げていますが、営業方法や施設の立地によって、どちらを選択するかが変わります。特区民泊は長期滞在者をターゲットにする場合に有利であり、民泊新法は全国どこでも申請可能であるため短期滞在の回転率を上げやすいです。
民泊を検討されている方は、まず運営予定地が特区に含まれるかを確認し、適切な法律に基づいて準備を進めましょう。
5.よくある質問(FAQ)
Q1: 特区民泊と民泊新法のどちらが適していますか?
A1: 長期滞在や特定エリアの特区民泊の方が適している場合、特区民泊をお勧めします。一方、短期の利用者が多い場合や全国での展開を考えている場合は民泊新法が適しています。
Q1: 届出の手続きは難しいですか?
A1: 基本的には条件を満たしていれば許可取得できますが、設備、法律を事前調査する必要があります。書類の準備や消防・衛生設備に関する要件を事前に確認する必要があります。
6.まとめ
特区民泊と民泊新法の違いを理解することは、施設の運営方針や立地条件に最も適した許可申請方法を選択する上で重要です。特区民泊では、特定地域で独自の規制緩和を活用でき、宿泊日数制限や営業の自由度が高い一方、民泊新法は全国的なルールのもとで安定した営業が可能となります。